最後は自宅で過ごしたい患者さんのケース

看取り、最後は自宅で過ごしたい
患者さん 84歳、男性、Gさん
症状 最後は家で過ごしたいと退院を希望。
実施した診療や医療 食事量や水分量に合わせて点滴を行い、清潔保持や褥瘡予防などに対応。
現在の状況 ご本人の望み通り、穏やかな時間をご家族の皆さんとともに、最後まで自宅で過ごしていただくことができた。

84歳のGさんは、慢性腎不全と診断され、長い間病院に入院して過ごしていました。
桜の花びらが散り若葉が芽生える頃、Gさんは主治医から、年齢的にも慢性腎不全に対するこれ以上の治療は難しいことと、今の腎臓の数値から、余命は数か月~半年程度であることが伝えられ、ご本人・ご家族ともに、今後の人生をどう生きていくか、そしてどこでどのように過ごすのかを、何度も繰り返し考えてこられました。

Gさん「もう家に帰りたい。最後は家で好きなことして過ごしたい。おれは決めた。もう長くないなら、家で酒飲んで、旨いもの食いたい。悔いはない。ここまで十分生きてきた。最後くらい好きにさせてくれ」

ご家族「そうだね。ここまでずっと入院して頑張ってきたもんね。腎臓に悪いからって、まともに好きなものも食べられなかったもんね。そりゃそうだよね。お父さんがそう思うなら、それでいいと思う。家だったら、好きな時間にご飯食べられるし、好きなものも食べられるし、お酒だって飲めるし。お父さんが今までずっと我慢してきたの私たちは知ってるから。最後はお父さんが好きなことしてほしい」

ご本人、ご家族で何度も「人生会議」を行った結果、退院して自宅で過ごすという結論に至りました。ここまで腎臓に負担をかけないように厳しい食事制限を行ってきたご本人の、「最後は好きなものを食べたい」という思いを、ご家族は全力で支えたいと考えました。

退院し自宅に帰るにあたり、主治医から、訪問診療の提案がありました。
自宅でも病院にいるときと同じように、点滴や血液検査、レントゲン検査などができる「訪問診療」の説明を受け、ご家族も「それなら安心」と、訪問診療が開始になりました。訪問診療の医師が自宅に伺い、毎月1回血液検査を行って、腎臓の数値を確認していきました。

また、食欲がない日が続いたり、水分があまり摂取できていない時は、点滴を行って、暑い夏場でも脱水症状が起こらないように注意しました。また清潔保持のための入浴や清拭、褥瘡(床ずれ)が起こらないようにポジショニングの工夫や褥瘡の早期発見・早期治療に努めました。

ご本人はお酒やつまみを愉しみながら、ご家族みなさんと温かい時間を過ごし、季節は暑い夏を越え、秋を迎え、ちょうどそのころから、徐々に徐々にGさんは眠ってすごす時間が増えていきました。

それでもお酒を飲むときは、一口一口大事そうにお酒を飲むGさんを、ご家族はいつもそばで見守っていました。
そして、クリスマスまであと1週間のその日、ご家族皆さんに囲まれて、見守られる中、Gさんは旅立たれました。
とても穏やかな最期でした。

悔いはないと言ったGさんに、「私たちもお父さんの希望を叶えられて悔いはないよ。今までありがとう、よく頑張ったね」と涙ながらに言葉をかけたご家族。
お父さんの希望を叶えるため、自宅に帰ると決意した後も、精神的にも身体的にも張りつめた時間がたくさんあったと思います。でも、Gさんの穏やかなお顔と、ご家族の「悔いはない」と言い切れるまでやり切った表情をみて、家で最期を迎えることができたことは本当にかけがえのない時間だったと思います。
ご本人の意思を尊重することができる、「自宅で自分らしく生きる」そういう在宅医療の深みを改めた感じた時間でありました。

医師からのメッセージ
訪問診療ではどのような状態の患者さんであっても、最善の医療を提供し、苦痛を最小限にすることを心がけています。私たちはこれまで、死ぬためにではなく、より良く生きるために自宅で過ごすことを、たくさんの患者さんから教えていただきました。
在宅医療は、生と死を切り離さずに生きることを正面から支え、生きることを全うする、大切な時間なのだと思います。

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