ご自宅で腹水穿刺を行った患者さんのケース

患者さん 75歳、男性、Iさん
症状 肝臓がん末期、腹水が多量に貯留しており寝たきりの状態
実施した診療や医療 腹水穿刺を行って腹水を減らすことで、座って食事を楽しむことができた
現在の状況 食卓の中心に座ったIさんの凛とした姿が、ご家族の大切な思い出になっている

75歳のIさんは、1年前から肝臓がんの治療を行ってきました。しかし徐々に病状は進行し、病院の主治医から、「これ以上の治療は難しく、緩和ケアを行っていきましょう」という説明がありました。
Iさんは腹水が貯留しており、歩くことも座ることも苦しく、病院のベッドに寝たきりの状態でした。
退院しても週1~2回程度は腹水穿刺(=お腹に麻酔をした後、小さな針を刺してその穴から貯留している腹水を抜くこと)のために病院へ通う必要がありましたが、高齢の奥様の介助だけでは通院は難しく、主治医より「訪問診療」の提案がありました。
自宅に退院できる、と聞いてIさんには1つ叶えたいことが浮かんできました。

Iさん「退院したら、また家族みんなでご飯を食べたいな。寝たまま座って食べる姿なんて見せたくない。ちゃんと座っておじいちゃんとしての威厳を保ちたい。最後までしっかりしたおじいちゃんでいたい」

奥様「昔は教師として生徒の手本になっていた人だから、子どもや孫達にはしっかりとした姿を見せたいんだと思います。2週間後の、私たちの結婚記念日に、家族全員で集まる予定なんです。どうにかその日だけでもなんとかなりませんか?」

入院している病院と、訪問診療を行う在宅チームで退院前カンファレンスを行い、しっかりと身体状況を含めた情報共有を行った後、Iさんは結婚記念日の1週間前に退院することに決まりました。
退院後は、ご自宅で、ポータブルエコーを使って腹水の量を判断しながら、貯留が多くなった時は腹水穿刺を行っていきました。そして、食事会の前日にも腹水穿刺を行い、翌日の食事会に向けて体調を整えました。

腹水穿刺によってお腹の張りが減ったことで、結婚記念日当日、Iさんは家族全員のいる食卓の中心に、しっかりと座ることができました。食事をたくさん食べることは難しかったですが、ご家族の皆さんと同じ目線でその場の空気を楽しむことができました。

Iさん:「入院していた時は全て諦めていたけど、こうやってまた家に帰ってこれるとは思わなかった。もう座ることも、食べることも諦めていたけど、まだできるって思うと元気がでてくるね」

奥様:「退院してからずっと笑顔なんですよ。お腹が張っても、往診に来てくださいって先生を呼ぶことができるし、すごく安心でした」

その後、Iさんは「迷惑をかけず、威厳を保ちたい」というご本人の意向もあり、ご自宅近くの緩和ケア病棟に入院され、しばらくしてから、結婚記念日に食卓を囲んだ、ご家族皆さんに見守られながら旅立たれました。
食卓の中心に座っているIさんのその写真は、今もご家族にとって大切な宝物となっています。

医師からのメッセージ
退院してご自宅でやりたいことを叶えることができ、そして同時に、その姿がご家族の大きな支えにもなります。訪問診療では、決して型にはまったやり方ではなく、患者さんお一人お一人の希望に対して、柔軟に対応していくことができます。オーダーメイドの対応が、訪問診療や在宅医療の大きな魅力の一つです。

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